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July 14, 2005

ロンドン  − オトシマエのつけかた

stMary

また性懲りもなくロンドンのことについて書いてしまうんですが・・・。
すみません。ちょっと長くなっちゃうんですけど、良かったらおつきあいください。

昨日、テロの実行犯が特定されたとの報道。
同時にリーズという街にある隠れ家が捜索されて、関係者も逮捕されたとか。
犯行からたったの5日で、ここまで捜査を進めるのは全く驚異的なスピードです。
これは、とにもかくにも、監視カメラ(CCTVカメラ)によるところが大きいと言われてます。

朝の通勤ラッシュ時、キングス・クロス駅の雑踏の中から「こいつら怪しい」という
4人を特定して、それぞれが違う地下鉄に乗り込むのを追跡して、「こいつらで
間違いない」という証拠をつかむ。いや、あるいはもしかしたら逆かも知れませんね、
爆破された地下鉄の車両に乗った乗客全員の足取りを逆にたどって、その中から
容疑者4人がキングス・クロス駅で合流したことをつかむ。いずれにせよ、ロンドンでは、
これを、CCTVカメラに残された映像を洗い出すことで追跡できるわけです。

我々日本人には、にわかに信じられないですが、ロンドン市内には、何十万(何百万?)もの
CCTVカメラがあります。駅、店、全てのバスの車両、もちろん地下鉄の車内。
公共の場所ではおそらく、ほぼ死角がないと思います。

わかりやすい例を。

ロンドン市内には、コンジェスチョン・チャージ(渋滞税)というシステムがあります。
市内中心部に入ったクルマは、その日の夜10時までに、8ポンドのお金を払わないと、
100ポンド(2週間以内に払えば50ポンド)の罰金が課せられます。僕も、払い忘れた
ことがあるんですが、払わないでいると、1週間ほど後にクルマの持ち主に、反則キップと
一緒に送られてくるのが、CCTVカメラで撮影された、自分のクルマのナンバープレートの
写真です。「何月何日、どこで撮影」と。ロンドンの中心部に入るすべての道にカメラが
設置されていて、一台残らず全てのクルマのナンバーを撮影してる。そしてそれを監視
するシステムがある。決して抜け漏れはありません。一昨年に施行されたシステムなの
ですが、全く何の混乱もなく導入されました。つまり監視カメラと監視システムはすでに
あって、要はそれの使い方の問題だったわけですね。

例えば若い女性が、夜、帰宅途中、何者かに襲われて殺されてしまう事件が起きたとします。
彼女の足取りは、CCTVの記録で追うことができる。彼女が最後にCCTVに映る光景は
いつも彼女が使うバスの出口。そして同じ停留所で降りた男が数人。TVニュースはこの
光景を放映して言います。「この男性の中の誰かが犯人という公算が強い」

「監視カメラ社会」の善し悪しを言ってるんじゃありません。このシステムがいかに
的確に機能してるか、という例として。少なくとも僕のまわりのイギリス人に、これを
悪く言う人はいません。もちろん渋滞税はイヤですが。でもこれを提唱するロンドン市長は
再選されたし、結果、かれは渋滞税を5ポンドから8ポンドに値上げしました。
8ポンドって、1600円ですよ。すごいですね。

「イギリスはテロに関しては長い歴史と経験を持っている」とBBCでも言ってます。
IRAのテロとの闘いを経て、この監視システムとメンタリティが培われたのだとも言われてます。

イギリスの情報機関は、決してジェームス・ボンドみたいなアクション・ヒーローじゃなくて、
膨大なCCTVカメラの映像記録をしらみつぶしに調べる、気の遠くなるような地味な作業を
着実にやってのける人たちだったんだなぁと思うと、ちょっと意外な感じもしますけど。でも、
それにしてもすごいスピード。犯行後4日で確証を得て、5日目には逮捕/発表にこぎつけると
いうことは、多分、2日目、3日目には、犯人の目星がついていた、ということでしょう。事実、
そういうような新聞報道もありましたしね。

「動揺しないように。仕事に戻って、普通の生活を続けよう」と市民に呼びかけつつ、
水面下では情報捜査のプロ達が凄い勢いで犯人特定を進めてたと。多分ブレアは、
MI5の幹部から「捜査は数日でメドがつきます」なんて報告されてたんだろうなぁ。
どうやら主犯格は国外逃亡したらしいという報道もありますけどね。

それにしても、全くしたたかなテロに対するオトシマエのつけかたです。9・11の時の
アメリカとのあまりの差にホント、驚いてます。テロの効果を最小化させる方法を、
綿密に組み立てられたシナリオ通りに進めてる感じ。

そして、この、捜査の圧倒的なスピードは、普段、監視カメラ社会に置かれて、例えば、
いつも確実に渋滞税の罰金を徴収されてるロンドンの市民に対しても、何かこう
今回きっちりオトシマエつけた、って感じすらします。

見事です。イギリス。

そんなイギリス人にも衝撃的だったのが、実行犯がイギリス人であったということ。
テロはどこか外部からやってくるのではなく、それすらも内包するのが、英国社会なのだと。
ロンドン市内のムスリムの割合は5%程だと言われてますが、さっそくムスリムコミュニティに
無用な危害がないように各方面に呼びかける対応がなされているようです。


上の写真は、パディントンのセント・メリー病院。ちょっと前に撮った写真です。
最近は、ダ・ビンチ・コードの舞台にもなって有名な病院ですが、爆破された
エッジウエア・ロード駅での被害者の方々が収容された病院でもあります。そして、
明日正午、この病院の礼拝堂で、被害に遭われた方々のための追悼ミサが行われます。
僕の会社にもミサの案内のメールが来たのですが、僕はキリスト教徒ではないので、
ここには行かず、正午に市内全域で黙祷、というのにだけ参加します。

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Comments

いえいえ、どうぞいつでもお気軽にコメントください。

ポイントはそこですよね。監視システムに対する是非論は、色々あると思うんですが、
少なくとも英国では、プライバシ侵害などの問題よりも、実際に得られている
メリットの方がはるかに大きいので、あまり表立って問題にはなってません。
実際、監視の行き届いてない場所など、危なくて夜の一人歩きなどできませんから、
その点では、監視カメラというと「プライバシーの問題が」という論議の起きる
日本は、「平和で安全な社会」なのだと思います。

もうひとつ別の視点から言うと、日本は過去において、言論を統制したり、
検閲を行った事実がありますから、日本の社会の特性として、プライバシの
「官」による管理には、一定の歯止めが必要、という考えもあるかと思います。

興味深い例として、日本語には「プライバシー」に対応する訳語がない。
「プライバシー」という概念を表現する日本語がないんですよ。つまり、
「プライバシー」という概念が、日本には存在しなかった。多分、僕らが子供の
頃、「子供ひとり一部屋」なんて、かつては贅沢だったことが現実になった
あたりで、どこからか言葉と一緒に輸入された概念ではないかと思います。

同じように「アイデンティティー」という言葉に対応する日本語も見当たりません。

ですから、これら元々日本にはなかった概念について考えるとき、我々日本人は、
ことさら意識的になる必要があるのでは、と思います。

こっちの方こそ、とりとめもなく長くなっちゃいましたね。すみません。

Posted by: TEZ | July 17, 2005 at 07:54 PM

コメント差し上げるタイミングを逸してしまいましたので、短く短く。

英国のカメラセキュリティのすごさは聞いていましたが、これほど効果を上げる
とは正直予想外でした。

数年前のマイノリティレポートで見た、地下鉄車輌入り口での乗客の網膜スキャン、
Underground がヒントになっているのかもしれません。
あの映画は50年後の都市、文化をそれぞれの分野の権威がまじめに討論して
出来た世界だと、"Making of" なボーナスDVDにありました。

確かに犯人の早期特定に寄与したことは大きいですが、逆に以前のクリッパー
チップのように個人のプライバシが「官」に管理されるとか、日本で最近議論が
下火になってますが、住基ネットとかの話に妙な影響がでなければいいのですが。

とりとめもない雑談ですみません。ちっとも短くないですね。

Posted by: Eltoro | July 17, 2005 at 06:41 AM

あさみさま。

はじめまして。TBとコメント、どうもありがとうございます。

捜査は着々と進んでいるようですね。核心にたどり着くにはまだ時間がかかる
ようなことも言われてますが。でも、その結果、どこかを、あるいは誰かを報復の
ために攻撃するようなことは決してしない様子が見て取れます。
そちらにも寄らせて頂きますね。

Posted by: TEZ | July 16, 2005 at 07:05 PM

はじめまして。
ロンドンのその後が気になって検索していてたどり着きました。(+Queenコンサートで引っかかったともいう)

日本の報道ではもうひとつ分かりにくかったCCTVカメラの話など興味深く読ませていただきました。今回のイギリスの対応の早さには感心しきりです。その腰の強さで事件も越えていって欲しいと思います。
また、寄らせていただきますね。

Posted by: あさみ | July 16, 2005 at 11:45 AM

死者の数の問題ばかりとは思えませんが、確かに今回のテロは“内紛”という
言い方が当てはまるんでしょうか。いずれにせよつらい事実だと思います。

Posted by: TEZ | July 15, 2005 at 03:46 PM

世の中、戦争による死者の総数よりも内紛による死者の総数のほうが断然多いんですよね。
なので、イギリス人がテロの実行犯ということに特に驚きもしませんでした。
なんだか寂しいことですけど。
でも、綿密に計画したテロよりも、たったトチ狂った運転手が暴走したときのほうが死者が多いなんて、テロなんてやってらんないですね。

Posted by: shin | July 15, 2005 at 12:03 PM

joujoukaさま

こんにちは。ご無沙汰してます。
ロンドンのお知り合いのご家族、その後連絡取れましたでしょうか?
ご無事だと良いですね。

今日の正午は、ちょっとびっくりするくらいの大勢の人々が、
ビルやオフィスから出て来て、僕も彼らと一緒に戸外で黙祷しました。

一部、ムスリムコミュニティーへの無益な攻撃が報道されてますが、
きっとこの街の人たちは、これを乗り越えると思います。

ははは、豚の“遠くを見る目”! でもこれ、本人(本豚)はすっかり馬の
つもりですし・・ね。

Posted by: TEZ | July 15, 2005 at 04:40 AM

お久し振りです。以前TBしたjoujoukaです。
今回の件でのイギリスの対応スゴイと思います。
ムスリムの方達への2次的な被害が拡大しないように願っています。

(↓の回転木豚の遠くを見る目がとても気になっています!)

Posted by: joujouka | July 15, 2005 at 03:07 AM

ANGELさま

コメントとTB、どうもありがとうございます。
そうですよね。他のことは結構いいかげんなのに(笑)
これを冗談にするのはちょっと不謹慎なんですが、ニュースで、地下鉄から
緊急避難する人たちが、パニックの気配が全くなく、落ち着いたものだったと
言ってましたが、さもありなん。きっと「ちぇ、また故障かよ」と思ってたんでしょう。

ClieistDさま

こんにちは。ブログはいつも拝見してます。

日本でこれがどのように報道されているかわからないのですが、
イギリスの警察力のすごさと、イギリス人の肝のすわってること、
ホント今回はシャッポをぬぎます。見事でした。

Posted by: TEZ | July 14, 2005 at 03:13 PM

初めまして、Eltoroさんのところから来ました。
一連のロンドンテロのエントリー拝見しました。

朝日新聞では、一昨日あたり、犯人逮捕の記事が載っていて、イギリスの警察力のすごさに驚いていました。
それが、今回のエントリーの監視カメラが役立っているわけですね。

また、お邪魔致します。

Posted by: ClieistD | July 14, 2005 at 01:06 PM

TEZさん、初めまして。
LONDONに滞在して早7年が過ぎました。
テロの話はいろいろ昔からIRAの件も含め耳にはしていたのですが、実際起こると身のすくむ思いがしました。

私も普段はいい加減にも見える(笑)イギリス人がテロに屈服しないという意思と復旧の速さを見せて非常に感心しております。
自分のブログとはあまりにも違い恐縮ですがTBさせて頂きました。また、おじゃまさせて頂きますね。

Posted by: ANGEL | July 14, 2005 at 08:22 AM

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