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2012年3月 4日 (日)

ハンスのこと

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昨日から仕事でジュネーブに来ている。

海外出張が多い、というと、何だか華やかなシゴトをしているように思われがちだけど、
実は、全くそういうことはなく、裏方として薄暗い舞台裏で、現地の現場の連中と地味な仕事を
している。こういう光景の中で。スポットライトが当たるのは常に自分以外、そういう仕事。

海外にあるいくつかのチームの中でも、スイスを拠点とするチームが僕は一番好きで、
彼らと会えることを、毎回楽しみにしている。スイス人は、とてもチームワークが上手な人々だ。
多分、国の歴史的な背景や、そこから生まれたスイスアーミーというシステムや、色々なことが
この人達のキャラクターをかたちづくっているのだと思う。お国柄というのはあるものだ。

何人かのごく親しい仲間の中に、ハンスという男がいた。気のいいオッサンで、現場頭というか、
いかにも若い連中の面倒見が良い、頼りになる人物だった。

数年前のこの現場で、ハンスがいないことに気がついて、ロブというチームのリーダーに聞いた。
「あれ、ハンスはどうしたの?まだ現場入りしてないの?」
ロブは答えた。「ああ、ハンスは死んだよ」

癌だったそうだ。周りの連中にも隠していたらしい。会社を長期病欠(あるいは退職)して
治療に専念するよりも、最期までいつもと変わらず皆と仕事を続けることを選んだらしい。
いよいよ動けなくなって、入院すると、数週間のうちに亡くなってしまった、とのこと。

裏方が働くエリアには、色々なものが置かれている。工具とか、材料、音響/映像機器の
コントローラーなど。大体はキャスターのついたユニットになっていて、トレーラーから
降ろして所定の場所に置き、扉をあければ即、仕事がスタートできるようになっている。
スイスの人達はシステマチックだから、その中には、アメニティのユニットもあって、
そこには、コーヒーメーカー、電子レンジ、食器類などが効率的に納められている。

アメニティのユニットは、舞台裏の、人が一番行き来する場所に設置されている。
今、その扉の裏にはハンスの写真が一杯張られている。

ヨーロッパの現場に来て、これを見るたびにちょっと泣きそうな気分になるけど、
それはここにいる皆が同じだろう。

よう、ハンス、また来たよ。

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コメント

切ない想いと、同時に、語弊があるかもだけど憧れの生き方・逝き方だなと思った。
病身の姿ではなく、自分の元気な日常が周囲の方々の記憶に残り、反芻してもらえたら、この上なく嬉しい。
とはいえ、よほどの信念や覚悟が無いと、貫ききれない生き様だよね。

投稿: hinako | 2012年3月 8日 (木) 19:15

hinakoさん、
死生観とか宗教観とか、そこには正解なんてありはしないんだろうけど、
僕らが想像するよりも、彼は淡々とそのようにし、周りも淡々とそれを受け止めた、
というような印象を、まわりの人達の言葉から受け取りました。
ただ報酬を得るだけが仕事の目的だったら、彼はそうしなかっただろうし、
色々と考えさせられたわけであります。

投稿: TEZ | 2012年3月 9日 (金) 17:49

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